剥脱性口唇炎の漢方療法(基本的な考え方)

剥脱性口唇炎では、患部が「口唇」ということから脾胃に関連する病として、それらの臓腑失調を調える漢方薬が多用されている様に思うが、実際、そのほとんどが人為的な行為(繰り返し剥がす、ステロイドを安易に塗布し続けるなど)によって起こることを考えると、脾胃の病として論ずるには無理がある。

剥脱性口唇炎に限って言えば、脾胃の病として診立てるのではなく、あくまでも「口唇という局部の病変」として捉え、なぜそのような状況が起こっているのかを推測しながら、アトピー性皮膚炎の漢方療法に準じた考え方で処方を組み立てていくとよいように感じる。

 

口唇を繰り返し剥がすこと=摩擦熱による炎症の助長

まず口唇を繰り返し剥がす行為は、無理に剥がすことから患部に「摩擦熱」を生じさせる。当店では、これを一種の熱証とし、その熱のために口唇が赤みを帯び、患部は乾燥して皮が肥厚し、熱感を感じるようになると考えている。さらにその熱から免疫反応が活性化され、炎症の範囲が広がることで口唇炎の範囲が徐々に広がるという特徴を持つ。炎症を抑えるためには、皮毛・肌肉レベルにおける実熱であることから石膏剤が有効になってくると考える。まだ炎症による残渣物が大量に生じている状況ではないので、黄連や黄芩などの解毒薬は必要なく、皮毛肌肉レベルの熱を取ることに長けた石膏剤で十分に対応できる。

炎症が持続することで生じる弊害=気滞・湿痰・瘀血

炎症が持続すると口唇の表皮破壊が慢性的に続くため、それによって微小循環障害が二次的に生じるようになる。これが気滞・湿痰・瘀血となり、気血津液の停滞によって口唇の状態はさらに悪化し、皮が肥厚する、ブロック状に剥がれるようになる、水にふやけやすくなる、乾燥やツッパリ感が強くなるというような症状が起こるようになり、さらに傷の治りが遅くなったり、口唇の色素沈着などに結び付いていく。

この段階になると症状が慢性化する恐れが出てくるため、早く気血津液の停滞を解除し、微小循環を調えることが必要になってくる。
気滞・湿痰・瘀血が患部で形成されると明らかな炎症による赤み、熱感などよりも、口唇の皮の肥厚・ブロック状剥離・ざらつき・乾燥・色素沈着がみられ、このような場合には、炎症がないことを確認しながら気血津液の巡りをよくする形をとっていくしかない。もし仮に虚熱や実熱が裏に隠れている側面があるのであれば、清熱剤を上手に使いながら、温性の理気・利水・活血を使用すればよい。

剥脱性口唇炎の回復期=気陰両虚を補いオーバーターンを調える

最終段階として患部が治る過程では、局所における気血津液の不足が生じる。この気血津液の不足によっても傷の治りのスピードが変化する。この段階では、理気・利水・活血を主とするのではなく、補気・補血・滋陰をメインにした方剤を選択する。もちろん気滞などの邪実が残る場合には、気血津液の補に理気活血などをかませて方剤を選択すればよい。