剥脱性口唇炎は気血津液の盈虚通滞だ。

剥脱性口唇炎の漢方療法と一言で言っても、本当にいろんな口唇炎の人が相談に来られる。中には全然剥脱性口唇炎ではない人、たとえば急性口唇炎やアレルギー性の口唇炎と思われるケースもあったり、単に口唇が荒れているだけのケースもあったり。

剥脱性口唇炎の漢方療法では、効果的な人とそうでない人がいることは間違いない。効果が出ない人は何をやっても(どんな漢方を使っても)全然症状が変化しない。この場合には、あれこれ考えても、その人の身体が漢方に反応してくれない体質を持っていたりするので、そもそも漢方で治そうとすることに無理があるように思う。

一般的には、漢方を使った場合、いい面でも悪い面でも何らかの反応があるはずなのだが、口唇以外の所見にも全く変化や反応が現れないのが、その特徴である。

一方、漢方がまずまず効果を発揮してくれる場合は、どんなきっかけで剥脱性口唇炎を発症したとしても、口唇の表皮の細胞群の代謝・形・整列などを含む「質」を改善することを主目的に方剤を組み合わせれば、少なからずそれらに反応し変化が生じる。

剥脱性口唇炎に関しては、漢方の本場の中国、あるいは日本の歴代の医家が記した文献などにほとんど参考となる資料や理論がない。中医学の専門書には口腔疾患に関する書籍もあるが、全然臨床に応用できない。(ありきたりな理論で全く参考にならないレベル)

そのため、自分自身でこの疾患の原因や改善法を今まで散々考えてきた。類似する疾患であるアトピー性皮膚炎に対する中西医結合和漢薬学理論を応用できないものかと試行錯誤してきたが、結局、どんな原因で剥脱性口唇炎になろうが、発症してからどれだけ年月が経ってようが、要は口唇の細胞の代謝・形・整列などの「質」が低下いていることが原因で、その裏には気血津液の盈虚通滞があるだけだ。

この気血津液の盈虚通滞は、身体のどこでも起こるが、それがたまたま口唇で生じているだけで、これが口腔粘膜で起これば、口腔扁平苔癬などになるだけの話である。

したがって改善するためには、この気血津液の盈虚通滞を調えればよいのだ。

しかし簡単に調えればよいといっても、そう単純でないのが人間の身体である。通滞を起こした原因である虚実・寒熱・病位など様々な条件を精査し、それに対する方剤や中草薬を適宜選薬していかなければ、到底改善は見込めない。

中医学では「口唇は脾胃と関係が深い」とされているが、そんな単純な話ではない。

今までの経験では、病位はアトピー性皮膚炎と同様に脾肺になることが多いが、腎や肝が絡んでくるケースもあるので厄介である。

改善させるためのヒントは舌診にありだが、舌診のどこをヒントにするのかを見極めるのもまた難しい。

とはいうものの、今まで数百例診てきたし、色んなことを考えながらこの疾患と向き合ってきて、だいたいどうすればよいのかは理解できた。あとはその考え方をうまく応用し、さらに昇華させ、よりよい漢方療法にしていかなければならない。