剥脱性口唇炎の実熱型の炎症では、赤み・痛み(痒み)・腫れ・熱感の4点セットが揃うことが多い。
そしてその炎症の出方のタイプとしては・・・
① 充血性紅斑、熱感
通常はステロイドなど西洋医学的な処置で治す。もし漢方で処置するならば、黄連解毒湯のような清熱解毒薬を用いる。また炎症のレベルが浅いなら石膏剤でも対応できる。急性の口唇炎などで、びまん性の紅斑で浮腫がある場合にそれらの方剤を用いる。
② 滲出性炎症(湿熱)
滲出性の炎症は炎症による血管拡張に伴う透過性の亢進より、小水疱や浮腫が生じている場合や浸出液が出るようなタイプの口唇炎では、清熱利湿法を用いる。最もよく使う組み合わせは麻黄+石膏の越婢湯の類や消風散の類である。
このような場合に過去の経験から浸出液を止めようとして補気剤である補中益気湯や玉屏風散製剤を用いても浸出液を止めることはほぼ不可能に近い。また化膿するかもしれないということから千金内托散や托裏消毒飲など肉芽形成を促進する漢方を使ってもほとんど効果が出なかった。
ヘルペスなど帯状庖疹が生じた場合には、口唇に水疱と赤みが生じるが、その場合には、越婢加朮湯と五苓散を用いるとよい。
③ 化膿性炎症(熱毒)
化膿は「毒」としてとらえる。普通は細菌感染を中心に考えるが、無菌性の膿疱などもこの範疇に入る。代表的な清熱解毒薬は連翹・桔梗・桜皮などになる。この場合は一貫堂処方を見習い、荊芥連翹湯や竜胆瀉肝湯、黄連解毒湯や五味消毒飲などを応用する。
④ 増殖性炎症
増殖性の炎症では、表皮が肥厚するとか、繊維化を伴う。この場合には、炎症のみならず、増殖性の病変に対する生薬がいるが、この増殖性病変を山本厳は瘀血と考えている。したがって消炎剤に瘀血を摂る生薬を配合するようにしている。
口唇炎の場合、毛細血管が拡張して、表皮のターンオーバーが亢進している状態をイメージする。これがまさしく瘀血となる。もちろん炎症性の細胞が浸潤しており、これを「熱」という概念で捉えて、角化異常があり、常に乾燥している状態を「燥」として、漢方では瘀血がベースにあって、それに炎症による熱、乾燥が加わっていると考え、治療は活血・清熱・潤燥を同時にやればよい。
⑤ 出血性炎症(血熱)
剥脱性口唇炎の場合、患部から出血するケースはほとんどないので血熱に対応する場面は少ない。しかし皮が剥がれた後、明らかに患部の血色がどす黒く腫れあがり熱を持っているような場合には、活血涼血の作用がある牡丹皮や乾地黄、芍薬、大青葉などの生薬を配合し、営血分の熱を冷ますこともある。
簡単に炎症と言っても東洋医学的にはこれら5つのタイプに分類され、それぞれが単独で出現するのではなく、複合的に出現することがほとんどであるため、その状況に合わせてこまめに漢方を調節しながら、とにかく早く炎症を抑えることが大切になってくる。
一般的な皮膚の炎症性疾患では、ステロイドが奏功することが多いのだが、この疾患ではステロイドが逆に悪化させる要因にもなるので、その使用は慎重に検討する必要がある。