以前、このコラムで浸出液が止まらない口唇炎に対する漢方療法の概要について記載していたが、今回は外治、つまり外用の使用について。
昨今では、ケガをした場合、細菌感染の恐れがない場合には「湿潤療法」にて治療していくことが推奨されている。
有名なものとしては、ハイドロキノン製剤、たとえばキズパワーパッドなどがある。
実際、僕自身も空手で拳の皮がズル剥けてしまうことがあるのだが、このようなときに湿潤療法をするかしないかで完治までの日数はかなり違ってくる。
しかしながら残念なことに口唇にはこのような製剤は使用できない。しかも皮膚に比べて表皮層が薄いこともあり、口唇の場合には浸出液が出始めるとなかなか止まりにくいという現実がある。
このような場合、浸出液が出ている口唇に対し、どのように処置すべきか・・・
実際の相談者からの話を総合すると皮膚科医でも見解が分かれる。
たとえば、ルリコンクリームなどの抗真菌剤の塗布を推奨されたり、ステロイドを推奨されたり、ワセリンの塗布を推奨されたりと、エビデンスに基づく科学的な治療をモットーとする西洋医学のはずなのに、医師によって治療法が全く違うため、患者は混乱するばかりである。
この状況に対し、今までの経験をもとに一定の基準を作っておくほうが、今後、同様のケースについても対処しやすくなると思うので、僕は次のように考えている。
原則は「湿潤療法」に従い患部を乾燥させない。
まず、何らかの原因で傷ができ、そこから浸出液が漏出し始めた場合には、「湿潤療法」の原則に従い、ワセリンの頻回塗布を行い口唇を乾燥させないようにする。塗布回数は1日10回程度、かなり厚く塗布し、カサブタを作らせないようにすることで傷を修復する物質を患部に集中させ、浸出液が漏出している箇所の傷をとにかく早く治す。
もしここでカサブタができてしまうのであれば、それは塗布する量・回数が少ないことを意味する。カサブタが出来てしまうと傷の治りが遅くなるので注意が必要。
炎症がある場合には湿潤療法は逆効果になることも
炎症があったり、血管の拡張から血漿が漏れ、それが原因で浸出液が出ているような場合には、その炎症を落ち着かせること、血管拡張を治めることを中心に漢方薬を用いる。
この場合、浸出液が出ているからと言ってむやみやたらに「湿潤療法」を行うと炎症とワセリンによって口唇の状態が悪化の一途をたどることがあるので、状況を見極めながら「湿潤療法」を行うかどうかを決める必要がある。(ときには外治を行わず、患部をとにかく乾燥させておく必要があるケースもある)
化膿している場合は湿潤療法はNG
一方、口唇の浸出液が皮膚科を継続的に受診しているにもかかわらず止めることができず、治療をあきらめ、ほったらかしにしている人がごくたまにいる。この場合、化膿を起こし、患部が酷い状態になっている場合があるが、このような場合には「湿潤療法」は行ってはならない。
このような場合には、まず化膿を引き起こしている菌を特定し、それらを殺菌するために適切な抗生物質を皮膚科で特定し、内服もしくは外用にて治療していくことを最優先する。
以上のように、浸出液が漏出しているような場合では、基本的には「湿潤療法」を行って患部の傷の修復を促すことを原則とするが、浸出液がなぜ出ているのか?という部分を明らかにし、それに応じて臨機応変に対応する必要があることを知っておいてほしい。