遠方から相談に来られた女性。
今まで唇に大きな問題が生じたことなどなかったのに、ひょんなことから急性口唇炎になってしまったらしい。
急性口唇炎の場合、適切な処置をすればすぐに治るケースが多いが、一部の場合、処置がまずかったり、適切でなかったりして一気に事態が悪化する。
そして最悪の場合、剝脱性口唇炎に移行してしまう。
この女性の場合は、急性口唇炎を医師からヘルペスと勘違いされ、ヘルペス用の薬を処方された。
それを使っても治らないことから、別の病院へ行き、ステロイドなどを処方されるも時すでに遅し。
頑固な口唇炎となってしまった。
初回に相談に訪れたときには、非常にひどい状況だった。
しかしながら僕自身は過去にも同様の口唇炎のケースを経験していたこともあり、冷静に対処することができた。
そしてしばらくしてからの写真。(H28.10月)
まだまだ急性炎症期段階。
漢方だけでは時間がかかりすぎるため、僕の考えの下、皮膚科を受診するように受診勧告をする。
彼女はその考えに従い、2件の皮膚科を受診するも、それぞれの皮膚科で全く違う説明をされ、さらに混乱する・・・。
しかも僕の意図していた治療とは全く違う治療を提案されたため、町医者レベルの皮膚科は断念し、もともと受診していた大学病院に行くように指示。
そこでようやくこちらの意図をくみ取ってもらえ、僕の思っていた薬剤が医師から処方される。
その処方を上手に活かしながら漢方では急性炎症期から組織破壊期へと移行させるようにする。(平成28年11月)
1か月が経過し、唇の皮のゴツゴツ感が一部残るものの、そのほかの部位に関しては薄い皮が片状に形成されるようになる。
この段階では、急性炎症期と組織破壊期が混在している。大学病院で処方された薬剤はそのまま継続使用し、漢方も変更することなく、とにかく急性炎症を抑えることに専念する。
それから約1か月(平成28年12月)
本当に徐々にだが、薄い皮の範囲が広くなり、ゴワゴワ感が少しずつ軽減していく。
処方はだいたい同じ形を維持し、微調節に終始する。
それから再び1か月(平成29年1月)
12月から1月の約1か月で劇的に唇の症状は改善し、急性炎症期が終わり、組織破壊期へと移行。唇の皮周囲の血行障害(気滞・血瘀)による皮膚甲錯を中心とした症状に変化する。
そこから2か月(平成29年3月)
組織破壊期は、急性炎症期の程度がどれくらい酷かったかによって軽重が異なってくる。この症例では、急性炎症が酷かったため、頑固に組織破壊期が残り、2か月経っても皮膚甲錯が時折出てくる。
そこから1か月(平成29年4月)
ようやく組織破壊期も終焉に差し掛かり、唇の状態はとても良い状況になっている。
この時点で、この女性はマスクをすることなく外出できるレベルになり、精神的にも安定し、唇のことが気になって食事がのどを通らなかったり、食べるものに非常に気を使ったりしていたが、徐々に普通に食事が摂れるようになり、好きなものも食べられるようになってきたという。
この剥脱性口唇炎は、急性口唇炎からの移行であり、初期の治療がまずかったために急性炎症が引かず、どんどん悪化の一途を辿っていた。急性口唇炎の段階で複数の皮膚科を受診したが、一向に改善しないことにより、どうすればよいのかわからなくなってパニックに陥り、初回の相談時にはとてもひどい状況だった。
しかしながらこれまでの経験をもとに、どうすればこの窮地を脱することができるのか、その道筋について、西洋医学・東洋医学にこだわらず、僕自身が持っている知識を総動員して、乗り切ることができた。
僕自身は薬剤師であり、医師ではないため、使いたい西洋薬はわかっていながら処方する権利を有さない。
したがって今回のように明らかに西洋薬を使うべき症例に対しては、医師への受診を勧告が薬剤師としての仕事である。ただ、せっかく受診勧告をしても、医師が適切な処置をしてくれないことがとても歯がゆい。
それでもあきらめずにしっかりと診断してくれる病院にかかることができたのがよかった。
顔面の美容というのは女性にとって非常に大きな関心ごとの一つになる。
剝脱性口唇炎というのは、簡単に治すことができないゆえ、女性にとって大きなストレスになる。今回のケースでは、本人は唇が信じられない状態になっていたことに対して非常に強いストレスになっていたが、それを解消することができて本当にうれしく思う。
今回のケースのようにスムーズに治る症例ばかりではないが、それでもいろいろな症例を経験することによって得られるものはとても大きい。
大切なことは剝脱性口唇炎に移行しないために、急性炎症が起こった場合は、適切な処置を早い段階で受けるということである。