数多くの剥脱性口唇炎の症例を診てきて、ざっと考えを記録しておきます。
1.皮が黄色く肥厚するパターン
口唇の皮がゴワゴワッと厚くなり、黄色く着色するのは、口唇の皮の中に唾液・水分・食事の残渣物などが浸透しているためです。
人間は、外部からの汚れを排泄するときに、それらの汚れを黄色く染めて排泄するという特徴を持っています。目ヤニ、鼻垢、痰など、ホコリやハウスダスト、細菌などによって粘膜系がダメージを受け、それらの汚れを分泌液とともに排泄する場合、すべて黄色く濁った排泄物となるのをイメージすると分かりやすいと思います。
唯一違うのは、粘膜系は分泌液を出して、それらの汚れを排泄する能力を持っていますが、口唇の皮は分泌液を出して汚れを排泄する能力を持たないので、黄色の汚れがそのまま皮に残り、それが外的な水分での湿潤と乾燥を繰り返す中で濃縮され、ドンドン汚れが蓄積していくために黄色く汚い肥厚した皮になっていくことです。
これらの状態になる場合には、「口腔内環境」と「生活環境」を改善し、汚れを組織内に侵入させない(清潔を保つ)ようにする必要があります。
ただしこれまでの経験上、どれだけ歯磨きしても、マウスウォッシュしても、ステロイド、リップ、ワセリンなどの外用薬を使用しても、まったく状態が変化しないケースが多々存在しているのは間違いありません。
それは、口唇の皮の新陳代謝が環境改善しても向上せず、いつまで経っても汚れが組織内に浸透するという状況が変化しないためです。
2.皮が白く肥厚するパターン
皮が黄色く肥厚する場合は、上述のように汚れが浸透しているのですが、白く肥厚する場合は汚れの浸透はないものの、普段の生活で外的な水分が浸透し、それによって皮の湿潤と乾燥を繰り返す結果、皮が肥厚しているようです。
この場合は、口唇の皮の組織の隙間が多く、外的な水分が出入りする状況があり、それによって皮がダメージを受け、そのダメージから身を守るために皮を厚くさせている防御反応的なケースとワセリンなどの外用薬の油分と洗顔、入浴、食事等の水分が細胞内に浸透し、それらが直接的に肥厚させているケースがあるようです。
この状態になっている場合には、外用薬を使用している場合は、それらの使用を中止し、口唇の皮に対して余計な油分を与えず、またできる限り水分を口唇の皮に付着させない状態にし、外的因子をとにかく遠ざける必要があります。
外的因子を遠ざけるだけで皮の質感が向上する場合もありますが、多くの場合、それらをすることで剥脱性口唇炎のパターンに変化がみられ、自分の口唇の本当の状態がそこで初めて知ることができるようになる場合もあります。
3.いつまで経っても滲出液が出るパターン
口唇の皮は非常に薄いです。剥脱性口唇炎の場合、口唇の皮の形成不利でバリア機能が破綻し、外的因子(唾液中の常在菌や真菌、食事中の刺激物など)によって口唇がかぶれ、それが原因で微細な炎症が起こり、ことあるごとに滲出液が漏出し、それが延々と続く場合があります。
この場合、口唇の皮が剥がれた後の赤みや熱感、痛みなどの違和感の有無から炎症の度合いを診て、さらに滲出液の色味と透明感、量から細菌感染などの可能性をある程度判断します。
当然、細菌感染などが強く疑われるような場合には医療機関の受診勧告をし、不用意に薬局で対処することはしないようにします。もちろん医療機関を受診しつつ、それらの結果と処方を踏まえたうえで薬局で相談することは可能です。
滲出液が出る場合は、医療機関から処方された抗生剤やステロイドを上手に使いながら、滲出液が漏出する環境から脱出するようにしますが、これもまた難治性でいつまで経っても改善しないケースがあるので難しいです。
4.上述のようにはならず、延々と口唇の皮が剥がれ続けるパターン
黄色くなったり、白くなって肥厚するわけでもなく、滲出液が出るわけでもなく、4~14日くらいのサイクルで薄い皮~やや厚めの皮がブロック状で剥がれ続ける場合は、口唇の皮の新陳代謝のリズムが狂い、本来であれば秩序だって口唇の皮の細胞が生まれ変わるはずが、無秩序になっている結果と思われます。
本来、細胞の新陳代謝はリズムよく、口唇であれば4日程度のサイクルで少しずつ再生と破壊を繰り返し、ある程度規則正しく、それらが行われるため、組織の質が確保されています。
剥脱性口唇炎の場合、よく聞くのが「ある時期に一気に皮がベロっと剥がれた」ということです。これが非常に厄介で、一気にベロっと剥がれることで、規則正しく、順番に行われていた細胞の代謝リズムが一気に失われ、それぞれの細胞が好き勝手に新陳代謝を行う結果、無秩序に再生と破壊が繰り返されるようになり、口唇の皮の質が著しく低下し、ブロック状で剥がれたり、割れたりしてボロボロに見える状態になります。ただし細胞自体は正常細胞で規則正しく細胞が整列できなくなっていっている状態に陥っているだけなので、多くの場合は4~7日でベロっと剥がれていきます。
おそらくこれが剥脱性口唇炎の本質であり、似たような構造を持つ皮膚ではこのような現象が起こりにくいのは、口唇の皮と皮膚では、組織構造の厚みが著しく異なるためではないかと愚考しています。
つまり、口唇の皮は極端に薄いが、そのバリア機能は強固であり、外的因子によるアタックで容易に炎症が起こるような脆弱な組織ではありません。しかしなんらかの要因で組織全体がベロっと剥がされてしまった場合には、その薄さが仇となり、規則正しい細胞の整列が一気に失われ、無秩序な再生と破壊に陥ってしまう危険性があるということだろうと思います。
その認識に基づいて考えるなら、どのパターンの剥脱性口唇炎でも、最終的には口唇の皮の新陳代謝を活性化し、無秩序になって無法状態に陥っている組織を立て直し、規則正しく再生と破壊を繰り返す元の状態に戻していくことを考えるべきです。
そのためには、剥脱性口唇炎は上述の4つのパターンに基づき、それぞれのパターンに従って口腔内環境の是正、生活習慣の見直し、外用薬の使用の是非を考えながら、新陳代謝のリズムを取り戻して細胞が正常に増殖できる環境づくりを行っていくことが重要なのです。
こちらでは漢方薬を使って、それらの目的を達成しようとしていますが、基本的には細胞に質の良い栄養・エネルギー・酸素を供給し、それらのベースとなる血流を作り、代謝を取り戻すことを主眼に置いています。
しかし漢方を使ったからと言って、すべての人が改善するわけでもなく、失われた正常な新陳代謝を取り戻す余地があった人は時間はかかっても改善する傾向に見られますが、そうではなく完全に失われてしまっている場合、もしくは漢方に反応してくれない体質、副作用が出やすい体質の人はある程度までは回復しても、そこから先の改善が全く見込めない(何をしても全く反応してくれない)ということも考えなければなりません。
かなりの症例を診てきて、このパターンであれば、この漢方を使っていけばよいというパターン認識は構築していますが、どれだけ詳細に患部画像を診ても、改善する余地のある人とない人の鑑別だけはどうしてもできないという問題があります。
要するにどちらにせよ、見た目は一緒なので効くか効かないかがやって見ないとわからないというところです。
「剥脱性口唇炎を改善するためには、無秩序になっている細胞の整列を規則正しい状態に戻す。」
この一言に尽きると思います。