これまでにかなりの症例を経験して、それぞれに漢方を処方し、その状態に合わせて適切な外用薬の使用法を伝授し、何とか剥脱性口唇炎から離脱してほしいと必死に取り組んできた。
そんな中、徐々に改善するもの、途中で停滞するもの、全く変化のないものなど、人によってこれほどに差があるのかと思い悩まされ、いずれの人が良くなるのかを最初の段階で判断できれば、こちらも苦労しないのにと思わずにはいられない。
しかし現実には、絶対的不変のパターン(これは今までの経験で、この口唇の状態の人は確実に治せないという一定のパターンが存在することがわかっている。)以外の人では、いずれの人が良くなるかは漢方療法をやってみないと分からないのである。
そういう中で、時間と費用をかけて、相談に来られる人にとっては「いつ良くなるのか?」と不安になったり、ストレスになったりすることもあるだろうが、それはコチラも同じことで、毎回必死に口唇の状態を観察し、体調も含めて、総合的に判断したり、あるいは局所に限定して判断したりして、とにかく改善してほしいという願いの下、処方を組み立てている。
こちらに相談に来られる前には、各医療機関で多種類の外用薬を処方され、それらを使用してもなお改善せず、時には転げ落ちるように悪化してしまい、外用薬不信を招いて、自己判断で全部中止し、そこから回復せずに延々と時間だけが過ぎてしまっている人が多い。
剥脱性口唇炎を治すためには、
1 正しい外用薬の使い方をマスターすること
自分自身の口唇炎に、ステロイド、抗生剤、抗真菌薬、抗ウイルス薬(ヘルペスなど)、ワセリンなどの外用薬のうち、どの薬剤が必要なのか、そしてそれをどう使用するのか(1日何回、何日間などの塗布条件)をきちんと設定すること。
必要でないものを使ったり、使用頻度の設定を誤ることで副作用を生じたり、口唇炎を悪化させたりする人がとても多い。
本来なら、医師または薬剤師が、正しい処方および使用法について詳しく説明すべきなのだが、それができていない場合には、剥脱性口唇炎を悪化させてしまう恐れがあることを十分に知っておくべきである。
2 必要以上に気を使いすぎない
剥脱性口唇炎になってしまい、一定のサイクルで口唇の皮が剥がれるのを何とか改善したい思いから、大きく口を開けない、笑わない、食べない、飲まないなど、口唇になるべく刺激を与えないように気を使う人がいるが、そんなことをしても治ることはない。
重要なことは、「今の自分の口唇には、一体どのようなケアが必要なのか?」を理解すること、そしてそれを確実に実践することである。
自分の口唇の状態を正しく理解できていないのに、漠然とケアしても意味がないどころか、悪化させている要因にもなっていることが現実にあるのである。
3 必要十分量の栄養と休息をしっかりととること
剥脱性口唇炎で最も治りにくいパターンの1つに、「栄養不足」「胃腸虚弱」がある。とくに痩せ型の女性で元々胃腸が弱く、食事量が少なくて、食が細く、あまり食べられない人は、漢方の効果も弱いし、栄養不足による代謝不良で本当に治らないことがある。
口唇という組織は、身体の中でそこまで重要な組織ではない。自分が一日で摂取した栄養は、当然、生きていくために必要なところに重点的に配分され、その残渣物が口唇の皮に回されていると理解したほうがいい。
その組織形態が崩れたために、細胞配列が乱れまくっている口唇炎では、それを立て直すために必要十分量の栄養がいるのは間違いのない事実である。
特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルは、満量摂取からやや過剰摂取になるのではないかと思うくらいの量を摂ったほうが明らかに治りが早くなる。
食が細く、食事量が少ない場合には、積極的にサプリメントなどを利用して、自分の口唇の改善に必要な量の栄養を摂取することが大切であり、それができていない場合には、全くもって改善してこないことがあるということを理解しておくべきである。
また新陳代謝は主に睡眠中に行われていることを考えると、夜中まで起きていたり、慢性的に睡眠不足があったり、夜勤があって生活習慣が不規則だったりする場合には、代謝が円滑に巡らないため、治りが遅くなることも知っておくべきである。
剥脱性口唇炎では、漢方を使って、乱れた組織配列を元に戻す手伝いを行うことで回復力を向上させつつ、自分自身の口唇炎のパターンを正確に把握し、それぞれに応じた外用薬の適切な使用、ならびに口唇の皮の質を向上させるために十分量の栄養を摂って、代謝を円滑にするために質の良い睡眠をとることで、治療期間が大幅に変わってくることを理解してほしい。
それらの条件が満たされていなければ、治るものも治らないのである。