元に戻すことを考える

一言に剥脱性口唇炎と言ったって千差万別。

共通事項といえば、定期的に口唇の皮が剥がれることのみ。

それ以外は人によって状況は大きく異なる。

炎症を起こして滲出液が出るもの、口唇の重なるところが赤くなり、上下の唇がくっついて難儀するもの、唾液中の汚れや食事の色素が沈着して黄色くなるもの、数週間もの間剥がれずに皮が凸凹になるもの、皮ができたかと思ったらすぐに剥がれてしまうもの、大きなブロック状の皮になってしまうもの、唾液で被れて何年も滲出液が止まらない者などなど

よ~口唇だけでこんなに多彩な症状が出るものだと本当に悩まされる。

これまで幾多の症例を診て、考えて、処方を立てて、その変化を追いかけて、更に反省と考察を重ねて、ずっとずっと臨床を行ってきた。

口唇の状態が、全身所見(体質的なもの)と関連がある場合もあるが、そのほとんどは関係がなく、とにかく口唇の皮の新陳代謝のリズムが崩れたり、バリア機能を失った粗雑な組織が形成されたりすることで、本来の口唇の皮の形成不利が生じた結果、口唇炎になっているというのが本質だと確信している。

この数年、コロナによって、どんな状況においても長時間のマスクの装着を余儀なくされた結果、口腔内環境が劣悪になり、その影響が口唇にたまたま及んで口唇炎になっている人がとてもとても多い。

あとは辺鄙な口紅などの化粧品を使ってアレルギー、炎症を起こしてしまう人がちらほらといる。

ほとんどが20代~10代であることを考えると、この疾患は新陳代謝が活発な若者ほど起こりやすいのかと愚考する。

たまに40代以上の人もいるが、そのほとんどが女性であるのは不思議なところ。(40代以降の男性は今までの経験上、ほぼ記憶がないくらい少ない)

まぁ、口唇炎になったって、普通はステロイドを上手に使って、ワセリンなどでケア出来たら、そのほとんどが自然治癒すると思うのだが、マスクの影響で口腔内環境が良くなくて、それが事態を悪化させたりすると、途端に難治性になる。

そうなるともう西洋医学的にはお手上げだ。

こうなってくると、医師も患者も、「どうすりゃいいの?」になって、途端に医療の道を外れて、「当てずっぽ」「場当たり的」な治療になるので、余計に事態は悪化する。

そこでようやく漢方の出番となる・・・

ウチにはそういう人しか相談に来ないので、これが本当にしんどいのだけれど、それを何年も続けていると、あらゆるパターンを診ることになって、何が来ても動じなくなる。

そして「当てずっぽ」「場当たり的」な治療を相談の際に是正し、その人ごとに合ったケアの仕方を指導し、状況に合わせて漢方を組み立てていく。

これが改善の第一歩。

そこからゆっくりではあるが、着実に事態を収束に向かわせ、その終息の仕方と本人の体質等を加味した上で処方を適宜組み換え、さらにケアの仕方も変えていく。

そうすることによって、代謝のリズムを壊し、バリア機能もクソもなくなった組織を立て直していく。

つまり、漢方でやっていることっていうのは、自分の身体が忘れてしまった正常な代謝のリズム、組織構造を元に戻すことに他ならない。

この元に戻す反応が早ければ、その分、治りも早いし、遅ければ、その分、時間がかかるようになる。

処方する漢方は、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹、脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎などの皮膚疾患やアレルギー疾患とは似て非なる漢方を使用しないととてもじゃないけど、僕には改善できない。

残念なことに、口唇の漢方系専門書は皆無であり、今の考えは全部自分で編み出したものになる。

だから唯一無二のオリジナルだ。

そのオリジナルを通して、異常をきたした口唇組織を元に戻すことが僕の仕事となっている。