剥脱性口唇炎の新規相談の問い合わせでは、「本当に治るんですか?」「どれくらいで治るんですか?」という内容が非常に多い。不信感や不安感が強い人あるいは家族が不信感を抱いているケースでは、残念ながら相談はお断りしている。
まぁ、そういう不安や不信感を持つ感覚は理解できなくはないが、そのような人を説得してまで漢方相談はしたくない。
それらの感情が少しでも軽くなればという願いを込めて、1つ症例を提示しておく。
20代 女性
2007年5月に下唇の一部に小さな発赤が出現・その翌日に発赤が広がり、約1週間で上下の口唇が重なる部分の皮が荒れて毛羽立つようになる。皮膚科を受診し、キンダベートを3日間使用するも症状は改善しなかった。4日目からはプロペトを使用するが、塗布するたびに皮が剥がれてしまいヒリヒリ感、腫れ感が増悪。その後、様々な処置を行うも上下口唇ともに痛み・痺れがあり、皮は分厚くゴワゴワに肥厚し14日程度で剥がれるサイクルを繰り返すようになる。
大学病院に毎週通い、その都度、口唇の状態を診てもらっているが症状が好転している実感はなく、医師からはワセリンをとにかく塗布して皮を保護する以外に方法はないと言われていた。
こちらに相談にこられてから、1年の間にヒリヒリ感やしびれ感を軽減させる目的で漢方を継続して用い、それらの症状は消失。しかし上下の口唇のゴワゴワとした肥厚は一向に軽減しなかった。
剥脱性口唇炎を数百例経験してきた中で、ゴワゴワになる場合、ならない場合の口唇の状態を詳細に検討した結果、ゴワゴワに肥厚し、皮が黄色くなるのは、「水分」が大きく関与しており、この水分の出所は「身体の中から湧き出るリンパ液や血漿液」もしくは「唾液、外部の水分、マスク装着による口唇周囲の湿気」の2種類に限定される。
ゴワゴワの唇の皮
この女性の場合は、身体の中から湧き水のように血漿液などが漏れ出ているタイプでなく、外部からの水分が細胞内に侵入し、金平糖のように凸凹したり、ゴワゴワになったりしていると判断し、新たに漢方方剤を1つ追加。
この処方を20日分継続することにより、皮膚のゴワゴワが劇的に改善。その後、同方剤を3か月使用し、口唇の皮は見違えるほどキレイになる。
方剤を加えたことで劇的に改善した唇の皮
本人は大いに喜び、口唇の状態が悪かったために長らく休職を余儀なくされていたが、無事に社会復帰され、現在も口唇の状態は安定している。
そしてついに口唇の状態が本人が満足できるくらいに回復したこともあって、漢方を卒業された。
卒業時の唇
ここまで回復させるのに2年弱かかった症例ではあるものの、大学病院に足しげく1年以上通っても全く変わらず、精神的にもダメージが大きく、外出すらままならなかった状態を漢方で改善できたことは客観的な事実である。改善の流れの中で精神的にも安定し、食欲も増加し、社会復帰できるまでに回復できたことが何よりうれしい症例であった。