口唇の構造と特徴

口唇の角質層は皮膚に比べて極端に薄く、角質細胞間脂質がほとんどありません。角質層が非常に薄いために、水分を保持する力が弱く、すぐに乾燥してしまいます。

また口唇の細胞のターンオーバーは皮膚が約28~35日なのに対し、3~4日と短く、さらに皮膚細胞には凹凸がほとんどありません。一方、口唇は凹凸があるのが正常な状態であり、荒れると逆に平坦になるという現象が起こります。そのために乾燥して荒れてしまうと、大きく皮がむけたように剥がれ落ちるように見えるのです。

口唇の構造と剥脱性口唇炎

口唇の皮は皮膚の100分の1の厚みしかないにもかかわらず、伸縮性に富み、唾液や飲食の刺激物などに対するバリア機能が非常に発達しています。正常では、水分や色素成分、刺激物など外的因子に対し、強固なバリア機能を有しているため、その侵入を許さず、大きな伸縮で破けることなく、口唇組織を保護していますが、汗腺や皮脂腺など分泌機能を持たず、乾燥には弱い一面もあります。乾燥すると荒れて違和感が出たりしますが、通常ではそれで炎症が励起されるようなことはなく、リップなどの保湿をすればすぐに組織が修復され、荒れは改善します。

しかし剥脱性口唇炎のように、組織破壊が起こってしまうと、バリア機能が破綻し、外的因子に対しての防御機能が著しく低下し、あらゆる刺激に容易に反応して炎症を繰り返したり、汚れが蓄積して黄色くなったりするようになります。その状態から、組織を保護するためには組織を肥厚させて守る以外になく、それが口唇の皮の肥厚につながっていくと考えられます。

正常な口唇の皮は薄く、ターンオーバーが4日であるため、手の豆のように肥厚した状態を保つこともできず、日数が経つごとに端から切れてブロック状に剥がれたり、ささくれ立って剥がれたりしたり、そうかと思えば頑固に貼りついたりして症例ごとに特徴を持った剥脱性口唇炎となっていくと思われます。

剥脱性口唇炎を正常化するのが難しいのは、薄くて頑丈なバリア機能を回復させるというハードルがとても高いからです。この機能を回復させるためには、前述のように外的因子の刺激量を減らし、組織に蓄積した汚れを徹底的に掃除し、ターンオーバーのリズムを取り戻す以外にありませんが、それらを「0」にすることは生きている限り不可能だからです。

したがって非炎症性の剥脱性口唇炎のパターンに属する場合には、すぐに改善すると思わず、気長に向き合っていく心構えが必要です。その改善には、数か月単位はいうまでもなく数年の治療期間が必要になってくる可能性があることを念頭においてください。

それぞれの口唇炎のタイプ

剥脱性口唇炎では「炎」という文字が使用されている関係上、炎症がその病態に深くかかわっていると考える方がいらっしゃいますが、実はそうではなく口唇の皮の代謝リズムが崩れて、本来4日サイクルで知らず知らずのうちに自然に剥がれる表皮の角質が剥がれず、それらが蓄積し肥厚した状態が病態の本質と考えてよいかと思います。
なぜなら当店に相談に来られる方のほとんどが皮膚科などを受診し、ステロイド、プロトピックといった抗炎症・抗アレルギー・免疫調節という薬効を持った薬剤を比較的長期間使用しているにもかかわらず、ほとんど改善していないからです。

一般的にこれらの外用薬は非常に切れ味が鋭く、炎症やアレルギーによって症状が引き起こされている場合、数回の塗布でそれらの反応を軽減させることができます。そしてその薬効は、使用した患者本人が間違いなく実感できるレベルです。

しかしながら、剥脱性口唇炎では、それらの薬剤がほとんど効果なく、逆に症状を悪化させたり、新たな症状を引き起こしたりさせているケースが散見されています。

当薬局には、それらの治療で治らなかった人ばかりが相談に訪れるため、実際にそれらの治療で治った人がどれくらいいるのかを把握することはできませんが、治らない人が相当数いることは間違いありません。

剥脱性口唇炎は、炎症性疾患でないと確信したのは、20代の女性がある特殊な疾患で比較的高濃度の内服ステロイドを長期にわたって服用しているにもかかわらず、剥脱性口唇炎が一向に改善しない症例を目の当たりにしてからです。

また一言に剥脱性口唇炎と言っても、個人差が大きく、口唇の皮の乾燥、ひび割れ、ふやけやすさ、表皮層のダメージは千差万別で、それらは唾液や飲食物の水分、外気の湿度、マスク着用の有無による湿気の影響、ワセリンやアズノール、ステロイドなど外用薬の使用歴などの影響に大きく左右される傾向があり、症状の発生状況、そこからどのようにして悪化していったのか、発症してからの期間など、治療に際して考慮すべき点が多々あります。

そのため一見同じように見える状態でも、皮の肥厚度、範囲、大きさ、剥がれ方、サイクル、乾燥度、ふやけやすさ、滲出液の有無、細菌や真菌感染の可能性など、個体差が非常に大きく、それに応じたきめ細かな対応が必要となります。

さらに口唇の皮のダメージのみならず、その影響が口唇の肉にまで影響を及ぼし、口唇の肉に深い溝が形成されていたりすることも多々あり、口唇の皮が再生する段階で溝によって皮が断裂し、そこから唾液や水分が浸透し、皮が肥厚していくケースもあります。

最近では、剥脱性口唇炎という医師の診断がないまま、ネットなどの情報を元に、剥脱性口唇炎と自己判断して当薬局に相談に来られる方もおられますが、素人の自己判断ほど怖いものはありませんので、医療機関にて診察を受けていただきたいと思います。

  1. 細菌感染もしくは真菌感染により化膿している口唇炎
  2. 免疫力が弱く、外的刺激が内部深くまで侵入し、そのために免疫反応が生じ、滲出液が生じている口唇炎
  3. 外的要因(アレルギー物質や紫外線、、マスクによる蒸れなど)を受けて突発的にかぶれたり、滲出液が生じる口唇炎
  4. 唾液や飲食物の水分、洗顔や歯磨き、入浴による水分が表皮内に侵入し、その水分によって肥厚する口唇炎
  5. 4のタイプに加え、ふやけと脱水による乾燥を繰り返すことで表皮が凹凸化し、強度に張り付いて容易に剥がれない口唇炎
  6. 口唇のきめ細かな皴が消失し、膜状構造の表皮形成を繰り返し、肥厚や着色の程度は軽い、もしくはないものの、代謝のリズムが乱れ、膜状表皮が一定のサイクルで剥がれる口唇炎
  7. ふやけによる加水に伴う肥厚は少なく、逆に脱水による強度な乾燥で皮が委縮して凹み、張り付いて剥がれない口唇炎
  8. 表皮細胞の接着力が弱く、ささくれたり、割れたり、剝がれたりしやすく、ふやけたりすることで容易にはがれる口唇炎
  9. 口唇表皮の栄養や血流不足で細胞の質が低下し、荒れが収まらない口唇炎
  10. 口唇真皮層の影響で形成される表皮細胞の質が悪くなり、膜状表皮となる口唇炎
  11. 加齢や生活習慣の問題から代謝が低下し、健全な表皮形成ができない口唇炎

剥脱性口唇炎では、これらのタイプが単独あるいは複合的に重なって複雑な病態を呈し、一見同じように見えても詳細に観察すると千差万別でそれぞれに応じた対応が必要となってきます。

急性炎症による口唇炎であれば、皮膚科や口腔外科でのステロイド含有の外用薬などの抗炎症薬、細菌感染を伴う場合には抗生物質の外用薬や消毒による治療を併用します。

ほとんどの場合、それらの治療で急性口唇炎が治まるため、剥脱性口唇炎に移行することはありませんが、一部の方は、その治療によって炎症が緩解しないため、慢性炎症に移行し、剥脱性口唇炎を引き起こしてしまいます。

慢性炎症に属する剥脱性口唇炎にはステロイドや抗生物質などの薬が効かないことが多く、ひどい場合には、それらの外用薬を使うことでさらに症状が悪化し、口唇炎の範囲が広がったり、皮の肥厚が強度になったりすることもあります。

また口唇炎が改善しないため、適切な治療を受けなくなった結果、剥がれた皮にできた傷口から細菌感染を起こして化膿している方も一部では見受けられます。

一言に剥脱性口唇炎といっても、各個人で生じている問題は実に様々であり、これを一片通りの方法で改善させていくことは非常に難しくなります。当疾患を改善させるためには、いかに各個人の状況に合わせて最善の対処法を考え、それを確実に実践してもらいながら、その時々の口唇の状態に合わせて漢方を微調節していくことが最も重要になってきます。

口唇という局所で、さらに極めて脆弱な表皮組織で成り立っていることを考えると、その部分の口唇の代謝や表皮細胞の整列など、乱れた組織構造を立て直すためには、普段の自分自身の生活習慣を見直し、自身が持つ「自然治癒力」を最大限に発揮する土台作りも併せて重要になってきます。

この土台が脆い状態でいくら漢方を使っても、自分の身体は改善する能力を発揮しきれないため、なかなか状態の変化が現れません。

とくに強烈な外的刺激に伴う口唇炎であったり、炎症で生じている口唇炎であれば、土台をさほど意識しなくても、それらの刺激をブロックすることで症状が落ち着くケースはありますが、機能低下を起こしていたり、代謝が落ちていたりして、どうしても口唇組織の状態を正常化させることができないケースでは、この土台作りが最も優先順位が高くとなります。

また剝脱性口唇炎の原因は千差万別であるため、その特徴を捉えるためには、必ず毎日の口唇画像が必要になってきます。ときに撮影し忘れたりすることがあっても、さほど問題はありませんが、数日ごとの画像などになっている場合には、病態把握の精度が一気に低下します。さらに画像の鮮明度が悪かったり、ぼやけた画像やピントがずれている画像でも同様にその精度が低下します。

剥脱性口唇炎は幸いにも視覚的に確認できるため、それを活かない手はありません。自覚症状だけではどうしても情報があいまいだったり、偏ったりすることがあるため、冷静かつ客観的に病態把握するためには、画像は決して欠かすことができないツールとなります。

毎日決まった時間に口唇の画像を撮影することはとても大変なことになりますが、これを習慣化し、撮影そのものが改善に向けての土台作りの一環になることを理解していただければと思います。

何度も言うように「剝脱性口唇炎の病態は千差万別」です。

このことをしっかりと認識していただいたうえで、自分自身の状況を理解し、私たちと一緒に改善に向けて歩んで行っていただけばと思います。

相談当初は、何をどうすればよいのかわからず、やみくもに不安がったり、しなくてもよい対処を自己流で行ったりする相談者も少なくありません。しかし相談を経ることによって、自分自身の状況を理解し、対処法が明確になり、土台作りと漢方で改善に向かっていけば、おのずとそういった状況もなくなっていきます。

口唇の皮は、炎症による免疫反応に伴う残渣物によるものはもちろん、滲出液の漏出によるもの、唾液や食事中の色素成分の沈着、黄色人種であるが故の皮膚色によって黄色く着色します。

炎症が起こっていない場合でも、鼻垢と同じように唾液や刺激物に対して組織内の汚れを掃除するために生じた免疫反応の結果に伴う残渣物によって着色することがあります。これは、炎症によるものではなく、たとえば日常生活において、黄色い鼻垢や目垢が出ても赤みや腫脹などの炎症反応を伴わない場合も多々あることと同様に、免疫が組織内の汚れを掃除しているために生じた着色と考えると良いと思います。免疫が関わっていたとしても炎症になるかどうかは、その程度問題であり、単純に汚れを掃除するだけでは炎症までには発展しません。

このような場合には、皮は黄色くなるものの赤みなどを伴わないことが多くなり、こういうときにステロイドや抗生物質を使ったりしても、効果が出ず、副作用の危険性がたかまります。(皆さんは黄色い鼻垢が少量出ている状態や目垢が出るたびに、そのような医薬品を毎回使うでしょうか?)

掃除のための免疫反応を異常な反応だと思い込んで止めてしまうと、外的要因に対する生理的防御反応を低下させる一方になり、症状が改善しないばかりか、肥厚がどんどん進んでしまう一因になりかねませんので注意が必要です。