剥脱性口唇炎の原因

口唇の構造と特徴

皮膚表面画像

口唇の角質層は皮膚に比べて極端に薄く、角質細胞間脂質がほとんどありません。角質層が非常に薄いために、水分を保持する力が弱く、すぐに乾燥してしまいます。

また口唇の細胞のターンオーバーは皮膚が約28~35日なのに対し、3~4日と短く、さらに皮膚細胞には凹凸がほとんどありません。一方、口唇は凹凸があるのが正常な状態であり、荒れると逆に平坦になるという現象が起こります。そのために乾燥して荒れてしまうと、大きく皮がむけたように剥がれ落ちるように見えるのです。

それぞれの口唇炎のタイプ別対策と漢方療法

剥脱性口唇炎では「炎」という文字が使用されている関係上、炎症がその病態に深くかかわっていると考える方がいらっしゃいますが、実はそうではなく口唇の皮の代謝リズムが崩れて、本来4日サイクルで知らず知らずのうちに自然に剥がれる表皮の角質が剥がれず、それらが蓄積し肥厚した状態が病態の本質と考えてよいかと思います。
なぜなら当店に相談に来られる方のほとんどが皮膚科などを受診し、ステロイド、プロトピックといった抗炎症・抗アレルギー・免疫調節という薬効を持った薬剤を比較的長期間使用しているにもかかわらず、ほとんど改善していないからです。

一般的にこれらの外用薬は非常に切れ味が鋭く、炎症やアレルギーによって症状が引き起こされている場合、数回の塗布でそれらの反応を軽減させることができます。そしてその薬効は、使用した患者本人が間違いなく実感できるレベルです。

しかしながら、剥脱性口唇炎では、それらの薬剤がほとんど効果なく、逆に症状を悪化させたり、新たな症状を引き起こしたりさせているケースが散見されています。

当店には、それらの治療で治らなかった人ばかりが相談に訪れるため、実際にそれらの治療で治った人がどれくらいいるのかを把握することはできませんが、治らない人が相当数いることは間違いありません。

剥脱性口唇炎は、炎症性疾患でないと確信したのは、20代の女性がある特殊な疾患で比較的高濃度の内服ステロイドを長期にわたって服用しているにもかかわらず、剥脱性口唇炎が一向に改善しない症例を目の当たりにしてからです。

また一言に剥脱性口唇炎と言っても、個人差が大きく、口唇の皮の乾燥、ひび割れ、ふやけやすさ、表皮層のダメージは千差万別で、それらは唾液や飲食物の水分、外気の湿度、マスク着用の有無による湿気の影響、ワセリンやアズノール、ステロイドなど外用薬の使用歴などの影響に大きく左右される傾向があり、症状が発生状況、そこからどのようにして悪化していったのか、発症してからの期間など、治療に際して考慮すべき点が多々あります。

そのため一見同じように見える状態でも、皮の肥厚度、範囲、大きさ、剥がれ方、サイクル、乾燥度、ふやけやすさ、滲出液の有無、細菌や真菌感染の可能性など、個体差が非常に大きく、それに応じたきめ細かな対応が必要となります。

さらに口唇の皮のダメージのみならず、その影響が口唇の肉にまで影響を及ぼし、口唇の肉に深い溝が形成されていたりすることも多々あり、口唇の皮が再生する段階で溝によって皮が断裂し、そこから唾液や水分が浸透し、皮が肥厚していくケースもあります。

最近では、剥脱性口唇炎という医師の診断がないまま、ネットなどの情報を元に、剥脱性口唇炎と自己判断して当店に相談に来られる方もおられますが、素人の自己判断ほど怖いものはありませんので、医療機関にて診察を受けていただきたいと思います。

これまでの経験から口唇炎は、大まかに8つのパターンに分類することができると考えます。

  • ①細菌感染もしくは真菌感染により化膿している口唇炎
  • ②何らかの原因で滲出液が生じている口唇炎
  • ③外的要因(アレルギー物質や紫外線など)を受けて突発的にかぶれたり、滲出液が生じる口唇炎
  • ④唾液や水分の影響を多分に受けて、強度に肥厚する口唇炎
  • ⑤口唇の皮のみならず、肉にまで影響が及んでいる口唇炎
  • ⑥一定のサイクルで皮が剥がれる口唇炎
  • ⑦強度な乾燥で皮が肥厚していく中で凹凸が生じる口唇炎
  • ⑧上述の状況とは全く異なるイレギュラーな口唇炎

①細菌感染もしくは真菌感染により化膿している口唇炎
②何らかの原因で滲出液が生じている口唇炎

①・②の化膿したり、浸出液が出ていたりする口唇炎では、漢方のみでは対処するよりも、適切な医療機関にて細菌検査、真菌検査を実施し、効果のある抗生物質を使用したり、ステロイドを上手に併用して治療したほうがより早く治すことができます。


しかしながら、過去に複数件の皮膚科などを受診しても、症状が改善しなかったことから、医療機関への受診を躊躇したり、拒否感を示したりする方がいらっしゃいます。
不信感が強かったり、診察する医師とうまくコミュニケーションが取れなかったりすることで、化膿や滲出液が出ている状態が延々と続いているのですが、本人は滲出液が出ていることに気づいていないことさえありました。

また西洋薬を使用しているにもかかわらず、症状が好転せず、滲出液が継続したり、なかなか西洋薬から離脱できない状態が続いたりすることが多いですが、そのような場合は漢方を使用することで好転していくことが多くなります。

③外的要因(アレルギー物質や紫外線など)を受けて突発的にかぶれたり、滲出液が生じる口唇炎

③の場合に、抗アレルギー剤やステロイドを使っても何度も再発してしまうことがあります。アレルギーの原因が特定できなかったり、紫外線による過敏反応をコントロールできずに慢性的に滲出液が出てしまうことがあるのです。
この場合には、滲出液が出る条件や出方、滲出液の量、性状などを詳細に検討した上で適切な漢方を服用することで十分にコントロールすることが可能となります。
特に紫外線によって滲出液が生じる場合、5月~9月ごろに症状が急激に悪化していくという明らかな季節性があります。その場合、滲出液が生じているときには、急性症状を改善する漢方を使用し、その症状が落ち着かせた後に日焼け止め効果のある成分が配合されたリップなどを使用することで悪化を防ぐことができます。

④唾液や水分の影響を多分に受けて、強度に肥厚する口唇炎

④の場合は、口唇の皮の組織構造が荒く、細胞間隙からワセリンなどの保湿成分、唾液、飲食物の水分や色素などが侵入し、それによって組織が破壊されて細胞の形・整列・オーバーターンにかかる期間に乱れが生じ、黄色く着色した凹凸のある皮ができるようになります。

このとき、皮は凸凹感が強かったり、強度な乾燥感で萎縮し、肉に食い込んでいくような状態になることが多くなります。
細胞内に唾液や飲食物の水分や色素が侵入してくると、身体はそれらの侵入をブロックするため、皮を肥厚させて保護しようとします。分かりやすく例えるなら、鉄棒などを握る機会が多いと、手掌を守ろうとして表皮が肥厚し豆ができるのと同じ原理です。

この反応は、身体の生理的反応の一種であり、それらを改善するには、刺激を極力避けることが必要になります。
そのため、脱保湿、水分などが侵入してこないようにできる限り、洗顔時・歯磨き時・入浴時にふやけないように工夫したり、食事を摂るときに口唇に水分がつかないようにストローを使ったり、大きく口を開けて摂取するなど、できる範囲で水分や刺激を遠ざけるという作業が必要となります。

剥脱性口唇炎が治りにくい原因として、睡眠時の唾液の影響や飲食・洗顔や入浴時の水分の影響、会話や食事などの口唇の伸縮など、どうしても避けることができない刺激が日常生活に存在することなどが挙げられます。

凸凹と肥厚する口唇炎の場合、口唇の見た目を気にしてマスクをつける人が多いですが、マスク内の環境は装着していない時に比べ、劣悪になるため、それらが皮に影響を及ぼして悪化させてしまう要因になり得ます。そのためマスク着用の有無だけでも治り方に差異が出ることもあります。

日常生活では、唾液や水分などの刺激を極力与えないようにし、自分自身で肥厚にブレーキをかけるように心がけつつ、漢方にてバリア機能、防水機能を復活させてオーバーターンを正常にすることによって次第に凹凸感が軽減して治っていきます。

⑤口唇の皮のみならず、肉にまで影響が及んでいる口唇炎

⑤の場合、口唇炎によって唇の肉に深い溝が入ってしまうことがあります。

この場合、溝の部分で口唇の皮がどうしても割れてしまい、そこから水分や唾液が侵入していきます。それによって表皮層の細胞が死に、代謝が止まって肥厚していきます。この場合、いくら保湿して水分を遠ざけても、肉の深い溝を浅くしていかないことには同様の症状が続くケースが多くなります。

この状態を改善させるためには、まず肉の深い溝を浅くするために傷跡を目立たなくする漢方を辛抱強く服用し、溝が浅くなった時点で皮の代謝の正常化させる漢方に変更していき、ゆっくり治療していく必要があります。

⑥一定のサイクルで皮が剥がれる口唇炎

⑥の場合、典型的な剥脱性口唇炎で、剥がれるサイクルが4~14日程度で個人差があり、ブロック状で剥がれたり、毛羽立つ様に剥がれたり、ふやけることで一気に剥がれたりと色々な剥がれ方を呈し、また剥がれた部分の口唇の赤みが強かったりすることもあります。
基本的に口唇の重なる部分は唾液や飲食物の影響で黄色味を帯びますが、それ以外の部分は肥厚してきたとしても白~半透明です。水分の影響を受けてふやけ易いこともあれば、そうでないこともあります。逆に乾燥感が強いこともあれば、そうでないこともあり、口唇の状況に応じた対処を行う必要があります。

皮が黄色くなる原因

① 滲出液の漏出
② 食事中の色素成分の沈着
③ 黄色人種であるが故の皮膚色
④ 鼻垢が蓄積したり、汚れが溜まったりすると黄色くなったり、痰が陳旧化すると黄色くなったりするのと同じ現象が生じている


口唇の皮は、炎症による免疫反応に伴う残渣物によるものはもちろん、滲出液の漏出によるもの、唾液や食事中の色素成分の沈着、黄色人種であるが故の皮膚色によって黄色く着色します。

炎症が起こっていない場合でも、鼻垢と同じように唾液や刺激物に対して組織内の汚れを掃除するために生じた免疫反応の結果に伴う残渣物によって着色することがあります。これは、炎症によるものではなく、たとえば日常生活において、黄色い鼻垢や目垢が出ても赤みや腫脹などの炎症反応を伴わない場合も多々あることと同様に、免疫が組織内の汚れを掃除しているために生じた着色と考えると良いと思います。免疫が関わっていたとしても炎症になるかどうかは、その程度問題であり、単純に汚れを掃除するだけでは炎症までには発展しません。このような場合には、皮は黄色くなるものの赤みなどを伴わないことが多くなり、こういうときにステロイドや抗生物質を使ったりしても、効果が出ず、副作用の危険性がたかまります。(皆さんは黄色い鼻垢が少量出ている状態や目垢が出るたびに、そのような医薬品を毎回使うでしょうか?)

掃除のための免疫反応を異常な反応だと思い込んで止めてしまうと、外的要因に対する生理的防御反応を低下させる一方になり、症状が改善しないばかりか、肥厚がどんどん進んでしまう一因になりかねませんので注意が必要です。

⑦強度な乾燥で皮が肥厚していく中で凹凸が生じる口唇炎

⑦の場合、唾液などの影響が少ないにもかかわらず、皮が再生し、日数が経過していくごとに皮の乾燥が強度で萎縮が生じ、それに伴って凹凸感が生じてきます。凹凸の大きさは人によって異なりますが、正常な口唇とは全く異なる形態となり、非常に違和感が強いです。またこのような場合、簡単に剥がれず、ある程サイクルが長くなるため、皮は黄色味を帯び、唾液などの影響を受けて口唇が重なる部分を中心に金平糖のように凹凸感が強くなります。

剥がれ方は毛羽立つように剥がれてくるというより、乾燥で周りから徐々に剥がれはじめ、それが中心部に向かっていく。そのため1つのブロックが⑥のパターンよりも大きくなります。

数百例に及ぶ臨床経験から、剥脱性口唇炎は、各病態により漢方の運用法が大きく異なってきます。
効き目がすぐに出ることもあれば、緩慢であることもあります。それらは病態のパターンと日常生活での刺激量の違いによって大きく異なってきます。

剥脱性口唇炎の場合は、本人が変化に気づかなくても、毎日画像を撮影し、それをこちらで確認することで小さな変化に気づくことも少なくありません。

今までの経験から、剥脱性口唇炎の④~⑦のパターンでは、着色の有無・肥厚・剥がれるサイクル・範囲などには程度の差はあれ、身体が水分・食事・刺激物・口唇の筋肉の伸縮(口を動かすこと)・紫外線・マスクなど多彩な刺激から組織構造を肥厚させることによって守ろうとする反応の1種によって生じているものではないかと考えています。

口唇の皮は皮膚の100分の1の厚みしかないにもかかわらず、伸縮性に富み、唾液や飲食の刺激物などに対するバリア機能が非常に発達しています。正常では、水分や色素成分、刺激物など外的因子に対し、強固なバリア機能を有しているため、その侵入を許さず、大きな伸縮で破けることなく、口唇組織を保護していますが、汗腺や皮脂腺など分泌機能を持たず、乾燥には弱い一面もあります。乾燥すると荒れて違和感が出たりしますが、通常ではそれで炎症が励起されるようなことはなく、リップなどの保湿をすればすぐに組織が修復され、荒れは改善します。

しかし剥脱性口唇炎のように、組織破壊が起こってしまうと、バリア機能が破綻し、外的因子に対しての防御機能が著しく低下し、あらゆる刺激に容易に反応して炎症を繰り返したり、汚れが蓄積して黄色くなったりするようになります。その状態から、組織を保護するためには組織を肥厚させて守る以外になく、それが口唇の皮の肥厚につながっていくのではないでしょうか。

正常な口唇の皮は薄く、オーバーターンが4日であるため、手の豆のように肥厚した状態を保つこともできず、日数が経つごとに端から切れてブロック状に剥がれたり、ささくれ立って剥がれたりしたり、そうかと思えば頑固に貼りついたりして症例ごとに特徴を持った剥脱性口唇炎となっていくと思われます。

剥脱性口唇炎を正常化するのが難しいのは、薄くて頑丈なバリア機能を回復させるというハードルがとても高いからです。この機能を回復させるためには、前述のように外的因子の刺激量を減らし、組織に蓄積した汚れを徹底的に掃除し、オーバーターンのリズムを取り戻す以外にありませんが、それらを「0」にすることは生きている限り不可能だからです。

したがって非炎症性の剥脱性口唇炎のパターンに属する場合には、漢方薬を服用したからと言って、すぐに改善できるとは限らず、数か月単位はいうまでもなく数年の治療期間が必要になってくる可能性があることを念頭においてください。

⑧上述の状況とは全く異なるイレギュラーな口唇炎

⓼の場合、上述の①~⑦のパターンに該当せず、口唇の皮の状態が特殊なケースとなり、その原因がまったく掴めないこともあります。
過去には細菌や真菌の影響で皮の新陳代謝が大きく乱れ、強度に肥厚し、なかなか剥がれない口唇炎であったり、細菌や真菌などの影響なく、滲出液や唾液・水分の影響、外的要因の影響など一切ないにもかかわらず、口唇の皮が何層にも重なり、強度に肥厚する症例の経験があります。これらに関しては漢方を使っても、ほぼ症状が改善に向かわない特殊例となります。

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